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ytc_17の日記

自意識の揺れ

 

 

 作家の村上龍さんがゲスト出演していた爆笑問題のラジオ番組を聴いた。その中で出てきた「自意識の揺れ」という言葉。

 

 中央線のホームに自殺を考えながら暗い顔をして佇んでいる中年男性がいるとして、その原因をどこに求めるのか。おなじモチーフでも人によって捉え方は違う。まだデビューしたての若い頃から龍さんと比較されてきた村上春樹さん。彼だったらそれを(おそらく)自意識の揺れだと表現し、龍さんだったらそれを早期退職で解雇されたからだと解釈するだろう、と。

 

 iPhoneでなんとなく聴き流していたけれど、自分の中でうまく整理できなかった。龍さんは自分自身、作家としてそんな自意識の揺れを吹きとばしてくれるものが好きだと言っていたけれど、中央線のおじさんにとっては龍さんの書く小説なんて少しも影響を与えないんじゃないだろうか。それは龍さんの書く小説が無価値だというわけじゃない。そこに効く処方箋は、結局のところ、「経済」とそれのもたらす「自尊心」以外にありえないんじゃないだろうか。ベルベット・アンダーグラウンドの音楽や、ジミー・コナーズのテニスや、中田英寿のサッカーで(あるいは「半島を出よ」で)、おじさんの持つ「自意識の揺れ」は解消されるのだろうか。

 

テニスボーイの憂鬱 (幻冬舎文庫)

テニスボーイの憂鬱 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 あるいは小説という容れ物を実験の材料にしているのかも知れない。それならわかる気はする。それこそ無謀な、果てしない挑戦のようにも思えるけれど。