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ytc_17の日記

夢を持つべきなのか

 

 村上龍さんのエッセイ集「おしゃれと無縁に生きる」を読んでいる。

 龍さんは確か川崎市か、以前は横浜市青葉区の方に住んでいたと思うのだけれど、近所の公立中学校でボランティア活動として講演会を開催しているらしい。(今もしているかわからない) ちなみに近所の活動についてはボランティアであり無報酬なのは、居住する地域とはいい関係でいたいから、というシンプルな理由だそうだ。生徒や保護者から事前に質問を集め、それに回答していくというかたちの講演の中で興味深いものがあった。それが表題の「夢を持つべきなのか」という質問だった。

 

 スポーツ選手や文化人、企業経営者などのいわゆる有名人はメディアの中で夢を持つことをしきりに語ろうとする。それは今も昔も変わっていないような気がする。

 

「自分は小さいころから夢を持ち続け、それに向かって努力しつづけて、ついに、夢は叶った。みんなもぜひ夢を持って欲しい。夢に向かってがんばればいつか現実になる」

 

 子どもたちは、今であれ昔であれ、そういったコメントをどのように受け取るのだろうか。サッカーのワールドカップやオリンピックに出場することを夢として持ち続けるべきなのだろうか。高度経済成長のような今日よりも明日より良い暮らしがあるという期待が社会にあればそれも有効かもしれない。しかし高度経済成長が完全に終止符を打ち、雪崩のように高齢化社会に足を踏み入れている現代社会にあって、夢を持つというのはどれほど有効なのだろうか。

 

 試しに現代の求人情報をみてみると、とても希望のある社会とは思えないし、仮に自分に子どもがいたとしたらそんな社会に放りこみたいとは思えなかった。できることといえば、学校を卒業する段階までに自分にはどのような職種があっているのか、あるいはあっていないのかを精査し、地理的条件という制約の中でこれなら就職できるかもしれないという仕事に出会うこと、それぐらいのような気がする。

 

 村上龍さんは下記の言葉で話を締めくくっている。

 

「夢というより目標と言ったほうがいいかも知れないが、ないよりも、持っているほうがいい。しかし、自分には夢や目標がないからと、がっかりする必要はない。 -中略- 興味があることに積極的に接していれば、いつか必ず何かに出会う。そのための時間を、あなたたち中学生は、とても多く持っている」

 

 

 

おしゃれと無縁に生きる

おしゃれと無縁に生きる

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2015/08/06
  • メディア: 単行本